獅子吼スカイフェスタ 2004

タイトル画像出典:NHK「プロジェクトX -挑戦者たち-」より

第4部:曳山を飛ばせ!栄光の大空へ・・・

2004/08/23UpDate


この物語は、獅子吼スカイフェスタで栄光を勝ち取るまでの、熱きフライヤーたちの挑戦の記録である・・・。


開会式に乱入せよ!!

 2004年7月31日。獅子吼スカイフェスタ2004の当日、会場である鶴来町の獅子吼高原には、熱気球や大道芸人たち、大空芸人たちが持ち込んだ仮装の作り物、同時に行われるアキュラシー大会の選手で賑わっていた。今年の作り物には大物が目立っていた。単純に大きさだけを比較すると、曳山はそれら大物よりもいくらか小さく見え、やや迫力に欠ける気さえした。

大物の中に並ぶ曳山

 心配された台風は進路がそれたために、獅子吼においては大きな影響を及ぼさないようであったが、テイクオフの風はフォローだったため、今日飛ぶことが出来るかは疑問だった。この場合、更にインパクトを増幅させるには、存在感を示す必要がある。その秘策はすでに用意されていた。
 獅子舞などの祭りでは、華を打ってもらった目録を口上として述べるのである。また、華以外においても口上を述べる場面がある。これを、開会式に行おうと言うのが秘策中の秘策であった。目録も、職人関沢がこだわって手作りされた。これは、前日に作られたものであった。文字も関沢自身が書き入れた。

吹流しはフォロー(左) 華の目録(右)

 最初の口上は、藤野が述べることになった。目録は関沢が担当した。開会式が始まり、鶴来町長の挨拶や、来賓の挨拶が続く。口上を述べるためには、この式典に乱入しなければならない。しかし、乱入の場を間違えると、式典自体をぶち壊すことになる。藤野は、慎重にタイミングをはかった。

開会式の様子

 開会式も終わりそうなムードを察知し、藤野が準備を開始した。司会者が閉会を告げようとしたその時、「飛び入り!!」と叫んで藤野が前に飛び出して行った。町長はじめ審査員も兼ねる来賓の方々の前で、口上を始めた。みな、最初は怪訝なムードであったが、やがてムードは祭りへと動き始めた。続いて関沢が目録を読み始めた。笑いも誘う絶妙な口上で、開会式を制した。

開会式で目録を読む関沢

再現された曳山まつり

 フォローだった風も、やがて正面から入るようになると、マイククングのパフォーマンスが始まった。その後、アキュラシー大会も開始され、選手が次々とテイクオフして行く。仮装のパラグライダーも、小さいものから順にテイクオフに運ばれ、やがては空へ飛び立って行き、いよいよスカイフェスタらしくなってきた。曳山を飛ばすには、良い風を選びたい。恵子、関沢、藤野らは、昼から午後にかけての時間帯を、曳山を飛ばす時間に設定した。

打ち合わせるメンバー(左) 賑わうテイクオフ(右)

 曳山をテイクオフへ移動させる時間が来た。「いよいよだ」。みな、そう思った。恵子が、CDのスイッチを入れた。大音量で、祭りの御囃子が流れる。誰ともなく掛け声をかける。「イヤサー!イヤサー!!」。拍子木が鳴り、渡辺氏が持ってきてくれたチンチンが響く。小林が曳山を先導する。訪れていたギャラリーは、「何ごとか?」と言う顔をしたが、やがて曳山に注目が集まった。
 曳山が坂を降りながら巡航し、階段に差し掛かった。最大の見せ場だ。御囃子の調子が早くなる。小林が笛を吹き、メンバーははたきを振る。大きな掛け声と共に、曳山は旋回し、担ぎ手たちによって階段を運ばれていた。
 曳山まつりは、獅子吼の地で見事に再現された。

いよいよ曳山まつりの開始(左) テイクオフまで巡航中(右)

ライバル出現

 派手な演出と曳山で勝負を賭けたハミングバードに、手強いライバルが現れた。パラパーク京都を本拠に活動するBIRDSパラグライダースクール。獅子吼スカイフェスタには、初回から参加し、2000年、2001年と2年連続最優秀賞を受賞した強豪である。彼らの作る出し物は吹流し系の作品で、常に美しさを空中で表現するスカイアートにふさわしいものばかりであった。今年は、「キリン」と言う奇抜なアイデアと、それを芸術の域まで高める色彩鮮やかな作品で勝負してきた。さらには、テイクオフで寸劇まで演じる演出で、観衆を惹きつけていた。テーマは、「紙しばい ウタとキリンのふしぎ旅」。キリンの首を上手く表現していた。まさに、アートだった。

最大のライバルBARDSの「紙しばい ウタとキリンのふしぎ旅」(写真:山本昌明氏)

 ハミングバードが勝つためには、飛ぶことが最大の条件だった。仮装フライトである以上、曳山まつりでいくら目立っても、飛ばなければ意味がない。しかし、天候は急速に悪化し、周囲は白いガスに包まれ、やがて雨になった。大物系の出し物を一旦テントに退避させ、天候の回復を待った。

寸前の決断

 願いが通じたか、やがて雨も止んだ。フライトが再開されたが、テイクオフの風は弱く、時折フォローになってもいた。誰もが、今日のフライトは厳しいと思っていた。
 とりあえず曳山をテイクオフへ運び、準備をしていたところへ、テイクオフを取り仕切る半谷氏から声がかかった。「曳山を飛そう!」。大物を飛ばすには条件的に厳しかったが、今日飛んでおけば後が楽になる。ライバルの出現で、冷静さを欠いていたメンバーは、慌しく準備に入った。小ちょうちんを飛ばし、大ちょうちんを飛ばす。が、赤い大ちょうちんがテイクオフでクラッシュした。風は明らかにフォローだった。藤野は、「これが曳山だったら・・・」とゾッとした。ここで、曳山のフライトは中止された。

ガスに覆われた獅子吼(左) 小ちょうちんの高田氏(右)

明日こそ!!

 初日のフライトはかなわなかったが、メンバーに落胆の色はなかった。むしろ、飛ばないことが正解だったと考えていた。無理して飛んで失敗していれば、曳山は大破していたに違いない。明日がなくなってしまうのである。今日飛ばなかったことで、明日にチャンスが繋がったのだと思った。
 夜のパーティーでは、満面の笑顔で明日に希望をつなぐメンバーの顔があった・・・。

1日を終えて楽しく騒ぐメンバーたち・・・


 


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