機体製作時から悩んでいたのが「スモーク」をどうやって表現するか?と言うことでした。ブルーインパルスの空中演技にスモークは欠かす事が出来ません。 |
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スモークは演技に欠かせない | |
実は当初から「紙テープ」を使うアイデアはありました。ラフスケッチでも紙テープを利用することになっています。紙テープにした理由の中には「万一の場合に簡単に切れる」と言うのがあります。編隊飛行はお互いが接近します。見た目のきらびやかさを強調して紙よりも強い素材を使った場合、テープが機体やラインに絡んだ場合のリスクは予想が出来ません。しかし、紙テープならば仮に木に引っかかったとしても切れてくれるので必要以上のリスクを負う事がありません。事実、訓練フライト時でも本番のフライト時でも紙テープが機体のラインに絡みましたが、予定通りに切れてくれました。これは、何を置いても優先させるべき事項でした。 |
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スモークの初期テストは想像以上に良かった | |
紙テープが十分に使えることがわかりましたので、今度は実際に空中で紙テープを投下する機構を検討しなければなりませんでした。実はこれが一番頭を悩ませた問題の一つでした。ラフスケッチでの「紙テープ本体を機体にセットし、テープ端にドラッグを付けて引き出す」方式は無理であることがわかっていましたから、後は単純に「落下・投下」するしかありません。空中演技では3機同時にスモークを投下しますので、パイロットが無理なく操作出来る必要があります。仮装フライトは2日間行われますから何度でも利用出来、現地でのアクシデント(トラブル)にも容易に対処出来るような単純な機構にする必要がありました。最も大切なのは「安全」かつ「確実な動作」でした。操作すれば必ず紙テープが出る必要がありました。 | |
模型でアイデアを試す | |
最初に考えた機構は「アルミなどのシャフトを利用してスモーク投下ハッチをラッチさせ、そのアルミシャフトを操作することでラッチを解除しスモークを出す」と言うもの。模型を使用して試作し動作確認を行いました。機構が単純なので当然のことながら確実に動作しました。この機構でもおそらく問題はなかったのではないかと思いますが、やはりメンテナンス性や安全性と言う観点から見直しが必要になりました。まず、誤操作や誤作動の危険がありました。ロック機構を付ける予定でしたが、その方法も車のシフトチェンジのように溝を付けてシャフトの動きを固定化することでしたから、製作には時間がかかりそうでした。パイロットからも機体にそのような金属シャフトを付けることに対する不安の声があがりました。アクシデント時にその金属シャフトが凶器になるかも・・・と。確かにそのとおりでした。 | |
スモーク機構 | |
そこで、もう一度設計をやり直しました。構造には硬い素材を基本的に使用しないことにしました。まずスモーク投下用のハッチ先端にゴムひもを取り付けます。ゴムひもの先端にはループを作ってあります。機体後部の下面から上面へゴムひもが通る穴を開けて、機体上部でピンなどでロックする機構を採用しました。このピンを引けばロックが解除されてスモークが出る仕組みです。お気付きの方もいらっしゃるでしょうが、これはレスキューパラシュートを引き出す機構と全く同じ考えです。ピンにはひもを取り付け、その先端にはレスキューグリップを取り付けました。これをベルクロで機体にセットすれば、いつでもパイロットが操作出来るはずです。この機構が持つ利点は当初の設計思想を全て反映していることです。機構が単純なので確実に動作すること。万一トラブルに見舞われてもメンテナンスが楽なこと。パイロットの操作が楽なこと。予期せぬ事態に陥ったとしても、構造的に操縦やパイロットに影響を与えるようなものでないこと。これらのアイデアも関沢校長の助言で実現することが出来ました。 テスト飛行を行った際に、このスモークもテストされましたが全く問題なく作動してスモークが投下されました。この時、2種類のスモークを試していました。一つは普通の細い紙テープを2本。もう一つはレジのレシートに使うロール紙。これは幅が広く長さも長いものでした。事前の手による投下テストでは、レシート用紙は重いためか落下中に捩れて切れてしまうことが確認されていましたが、機体に取り付けてテストした時は切れませんでした。セットする方法と落下しながら回転する方向を予め考慮して自然に落とせば捩れて切れることがないことがわかりました。この比較テストでスモークは正式に「レシート用紙」を使用することに決定しました。 |
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設計どおりに作動しスモークをたなびかせた |
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こうしてあの「スモーク」演技を行う事が出来たのです。やはり、物事は簡単に行かないことが多いですが、それを克服して進むことで成功への道が開けるのだと改めて感じました。 | |
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